コロナ禍・西川口・ヘルス|3月から収入激減で家賃も払えず退去勧告の追い打ち

新型コロナウイルスで世界中の人が困っていますが、日本の場合は特に風俗嬢の困窮度が高いようです。

風俗嬢の中には、風俗嬢であることを知られたくないので、周囲との関りを断っている人が多いのです。では同じ風俗嬢どうしの交流があるのかと言えば、人によっては風俗嬢ともあまり付き合いのない人もいます。

 

その理由のひとつとして、風俗嬢の中には、もともと人づきあいが苦手な人もいるからです。風俗の仕事は、あまり人とのコミュニケーションを必要としません。接客中も、それほど会話を必要としないので、人づきあいが苦手な人でも勤まります。

 

そのため、風俗嬢の中にはキャバクラ嬢から風俗に移ってきた女性も少なくありません。キャバクラは会話ができないとお客がつかないので、稼ぐことができないからです。先日インタビューした遥さん(28歳・仮名)も、コミュニケーションが苦手な女性でした。

 

奥の隅の席を選ぶ女性

遥さんは、待ち合わせした喫茶店の一番奥の隅のテーブルにいました。

隅っこでないと落ち着かないという遥さんは、レストランに行っても奥の隅のテーブルに座るそうです。

「奥の隅が空いてなかったらどうするんですか?」ためしに聞いてみると、「そのときは、1人だったら帰ります」と、彼女は答えました。

 

「誰かと一緒だったら?」

「仕方ないから空いた席に座るけど、ずっと機嫌が悪い」

遥さんはそう言って少し笑いました。

 

「それでは、これまでの彼氏さんは大変でしたね」

私が冗談めかして言うと、「彼氏はほとんどいたことないから」遥さんは、また少しだけ笑いました。

 

変な言い方ですが、「この人はあまり笑うのに慣れていない」そんな印象を受けました。

笑うのに慣れていないと言うより、あまり笑ったことがないと言ったほうが正しいかもしれません。僕は隅のテーブルが空いててよかったと思いながら、話を進めることにしました。

 

私は奥の椅子に、壁を背にして座っています。遥さんがそこに座ってくれと言ったからです。つまり、遥さんは壁しか見えない位置に座っているのです。

 

「そのほうが落ち着くから」遥さんは自分からその席に座りました。通常なら、インタビューする私のほうが遥さんの席に座るべきなのですが、彼女の希望ですから仕方がありません。私はICレコーダーをテーブルに置いて、インタビューを始めました。

 

風俗嬢として微妙な年齢

「コロナで困っていることをお聞きしたいのですが」

 

私の質問に、遥さんはまた少し笑いました。

 

「私はこの通り、美人じゃないでしょう? だからあまり指名がつかないんです」

「そうですか」

 

私はリアクションに困って、軽くうなづきました。遥さんは、28歳という年齢は風俗嬢としては微妙だと言います。

 

「ヘルスではもっと若い子が多いから負けてしまうし、かといって熟女風俗では若すぎる」

「なるほど、確かにそうですね」

私は妙に納得していました。

 

「だから稼ぎにくいんですね」

「そうなんです」

 

遥さんは私のほうを向いて座っていますが、目を合わせることはほとんどありません。私の顔を見るわけでもなく、遥さんの視線は常に私の右肩から、20センチくらい離れた壁に注がれていました。これでは、人とのコミュニケーションがうまくできないのも当然でしょう。

 

私は心因性の病気に詳しいわけではありませんが、もしかすると遥さんは対人恐怖症かもしれないと思いました。しかし、今日のインタビューとは関係ないので、余計なことは聞かないことにしました。

 

少ない収入がさらに激減

遥さんの収入は、普通のOLと変わらないと言っていましたから、月収20万円くらいなのでしょう。

風俗嬢にしては少ない金額ですが、コロナの影響で今はそれすらなくなっています。

OLの給料と変わらないのなら、OLになったほうがいいと思うのですが、それができないから風俗で働いているのでしょう。

 

遥さんは3月の収入はいつもの半分くらいで、4月はゼロだと話してくれました。ずっと月収20万円だったとすると、あまり貯金があるとは思えません。だから、コロナで風俗店が休業になってしまうと、すぐ生活に困ることになるでしょう。

 

遥さんは3月と4月の家賃を払っていないので、大家から「5月も払わないなら出て行ってもらう」と言い渡されています。

 

「それで、払えるあてはあるんですか?」

私の質問に、遥さんは黙って首を横に振りました。

 

「実家に頼めないんですか?」

「頼めるならもう頼んでます」

 

遥さんはまた薄く笑いました。

 

複雑な家庭環境

遥さんの両親は10年以上前に離婚していて、彼女は弟と一緒に母親に引き取られたようです

最初の1年くらいは母親と弟と3人で仲良く暮らしていたけど、やがて母親が男を連れてくるようになって状況が一変します。そのうち男が同居するようになると急に威張り出して、何でもないことで弟を殴るようになりました。

 

母が止めようとすると母も殴られます。遥さんは殴られることはありませんでしたが、もっと嫌なことをされたと言います。私はそれ以上聞きませんでしたが、だいたい察しはつきました。

 

母親に話しても「我慢しなさい」と言うばかりです。高校を卒業した次の日、遥さんは家を出ました。住み込みで働ける仕事を探していた遥さんは、隣町で寮のある風俗店を見つけていました。

 

このときから遥さんの風俗嬢としての生活が始まり、その後いくつか店を変わって、現在のヘルスで働いているということです。風俗嬢には家族との縁が薄い人が多いのですが、彼女もそうでした。弟さんはどうしているのか聞いてみると、近くに住んでいて配送の仕事をしていると答えました。

 

だったら、とりあえず弟のアパートに住まわせてもらったらどうかと話すと、「弟は彼女と住んでいる」と言うのです。「弟はその彼女と結婚するつもりで、しかも彼女は私の仕事を知っている」遥さんはつけ加えました。おそらく、弟の彼女は遥さんのことを良く思っていないのでしょう。

 

だから、遥さんが顔を見せると弟に迷惑をかけると思って、距離をおいているようです。八方ふさがりとはこのことか。私は、やりきれない気持ちを感じながらインタビューを終わりました。

 

新型コロナは、ただでさえ不幸な境遇の風俗嬢を、さらに苦境に追い込んでいきます。私は割り切れない思いで喫茶店を出て、遥さんを駅まで送っていきました。それから数日後、遥さんから電話がかかってきました。弟の部屋で、一緒に住むことになったと言うのです。

 

「弟さんの彼女は?」

私は思わず聞き返しました。

 

「コロナが落ち着くまで実家に帰る」

彼女はそう言って、実家に帰ったと言うのです。

 

「だから、しばらく一緒に住んでいいよって弟が電話をくれたんです」

「それって・・・」

「はい。きっと彼女は私のために実家に帰ったんだと思います」

「遥さん、よかったね!」

「はい・・・」

彼女は電話口で泣き出し、私も思わずもらい泣きしてしまいました。

 

「八方ふさがりでも何とかなる」電話を切った私は、いつになく幸せな気持ちになりました。