コロナ禍・DV夫から隠れて暮らすシングルマザー歌舞伎町の風俗嬢に政府の10万円給付は届くのか

歌舞伎町のピンサロに勤めていた香織さん(仮名・33歳)は、5歳の子供を抱えるシングルマザーです。

新型コロナの影響で働いていた風俗店が休業となり、4月は収入がありませんでした。

そのため、香織さんは今月の家賃が払えるかどうもわからないという、過酷な状況に追い込まれてしまいました。

 

実は、香織さんの不運はこれだけではありません。香織さんは夫のDVから逃れ、ひっそり暮らしているため、住民票も移していないのです。そのため、「政府の10万円支給も夫の元に行ってしまうのでは」と心配しています。

 

「私が勤めていた風俗店には、20人くらいの女性が働いていました。その中に、私とよく似た境遇の人が2人いたんです」

 

香織さんはこう話してくれました。

 

「よく似た境遇とは?」

「夫のDVから逃げてきた人が2人いたという意味です」

「そうですか。そういう人は風俗業界に多いのでしょうか」

「それはわかりませんけど」

 

私は、よけいなことを聞いてしまったと後悔しました。同じような人が風俗業界に多かろうが少なかろうが、香織さんにとってはどうでもいいことでしょう。

 

暴力夫から逃れる

香織さんは、子供が1歳の頃に夫の元を飛び出してきたそうです。

「夫の元を飛び出したとき、この子がまだ小さくてよかったと思ってます」

そう言いながら、香織さんは膝に抱いた我が子をギュッと抱きしめました。

 

「小さくてよかったとは?」

「夫が私に暴力を振るう場面を覚えてないからです」

 

香織さんは、女の子の髪を優しく撫でながら答えてくれました。

それを聞いて、私はなるほどと思いました。確かに、もう少し子供が大きかったら、夫が暴力を振るったことを覚えているでしょう。

 

それはきっと、子供の心に傷を残すに違いありません。

「この子には、父親は仕事で遠い国に行っちゃったと話すことにしています」

「そうですか」

 

私はそう答えて、年齢よりも老けて見える香織さんの横顔を見つめました。何度も風俗嬢にインタビューしたことのある私には、香織さんがかなり苦労していることはわかっていました。風俗嬢ではなくても、みんなそれなりに苦労しているはずですが、風俗嬢が背負っている重荷は、普通の人とは違う感じがしていました。

 

それは、風俗嬢が普通の人よりずっと苦労しているという意味ではありません。普通の人の中にも、風俗嬢以上に苦労している人はいるでしょう。しかし、風俗嬢の場合は人との縁が薄いように感じるのです。

 

「何を根拠にそう感じるのか」と聞かれてもうまく答えることはできませんが、親子の縁や兄弟の縁、夫婦の縁などが薄い人が多いという印象を受けるのです。現に、香織さんも両親との縁が薄い人でした。といっても、両親が亡くなっているわけではありません。

 

両親や姉との確執

香織さんの両親は東京の郊外に住んでいます。だから、今回のようにコロナ騒動で収入がなくなり家賃が払えないのなら、ひとまず実家に身を寄せればよさそうなものですが、香織さんはそうしようとしません。その理由を聞いたところ、香織さんはこう答えました。

 

「実家に戻ったら、夫に知られて連れ戻されるかもしれない」

 

なるほど、確かにその可能性もあります。しかし、それだけではないような気がしたのでさらに聞いてみると、両親との確執、さらに姉とのいさかいがあったことがわかってきました。

 

「2つ違いの姉は美人だし、勉強もスポーツもできたので、両親にかわいがられました」

 

香織さんはこう話します。

 

「同じ姉妹なのに、どうしてこうも違うのかねえ」

 

両親は事あるごとに姉妹を比べて、香織さんを蔑むような言葉を口にしていたようです。「姉は運動会ではいつも1等だったし、勉強もクラスで3番目に入っていたから」と香織さん。

「両親が気に入るのも当然ですよね」と、さみしく笑いました。

 

両親を味方につけた姉は、陰に回って香織さんに意地悪するようになりました。両親は薄々気が付いていても、姉をかばって何もしてくれません。

 

「筆箱を隠されたり、教科書に落書きされるなんてしょっちゅうでした」

 

香織さんは、中学高校時代に家族との楽しい思い出は何もないと話します。姉との間に決定的なことが起きたのは、香織さんが高校2年の夏休みでした。香織さんはクラスの友達に誘われて、夏休みの間だけスーパーで品出しのアルバイトをすることになりました。

 

そして、そこで知り合った5歳年上の男性と付き合い始めたのです。ところが、香織さんはその男性と歩いているところを姉に見られてしまいます。香織さんはてっきり両親にチクられると思ったのですが、姉はそんなことはしませんでした。

 

「あの人彼氏でしょ?」

 

姉に聞かれて、「うん」と答えた香織さん。

 

「へえー、香織もそんな年になったんだ。ねえねえ、どんな人?」

 

姉は興味津々に聞いてきましたが、初めて姉と会話らしい会話ができてうれしかった香織さん。

 

「今度3人で会わない?」と持ち掛けられたときは、両親に内緒にしてくれたことで姉を信用したこともあって、すんなりOKしてしまいました。

 

最初から彼氏を寝取る魂胆

数日後、3人で会って食事をしたのですが、それから1カ月くらいたって事件が起きました。日曜日の朝、「ちょっと出かけてくる」と言って姉が家を出たあと、香織さんはは何となく彼氏のアパートに行ってみたくなりました。

 

「昔から勘が鋭いんですよ」と笑う香織さん。

 

すぐ彼氏のアパートに向かうと、ノックもせずに合鍵でドアを開けて中に入りました。

そこで見たものは、ベッドの中にいる彼氏と姉の姿。

合鍵を投げつけて部屋を飛び出した香織さんは、その夜姉と大喧嘩になりました。

 

両親が驚いて止めに入りましたが、こんな状況でも「姉に向かって何て口をきくんだ」と姉の味方をします。いたたまれなくなった香織さんは家を飛び出し、たまたま声をかけてきた男のアパートに転がり込みました。その男が風俗店の店員だったので、そこから香織さんの風俗嬢としての生活がスタートしました。

 

「まるでドラマみたいですね」と言うと「でしょう?」と、香織さんは明るく笑いました。

 

なるほど。

 

これでは、新型コロナで収入がなくなり、家賃が払えないからといって実家を頼るわけにはいかないでしょう。香織さんのケースは少し特殊かもしれませんが、風俗で働く女性は実家と疎遠な人が多く、困ったからといって親元には帰れないのです。

 

香織さんから話を聞いた私はため息をつきました。

 

風俗で働く女性は、何か重いものを背負わされているように感じます。それだけでも大変なのに、そこに新型コロナではさらに苦労が倍増してしまいます。緊急事態宣言が解除されても、また新型コロナの第二波が来ると予想されています。

以前のような平穏な日々が早く戻って欲しいと、幼い子供を抱く香織さんを見ながら思いました。